絵本『はじめてのうんてん』

さく・え はなみ


ある あきのひ。

わかばちゃんのおうちの ゆうびんうけに、

こんなちらしがはいっていました。

「たまご ひゃくえん。

とりももにく ひゃくグラム はちじゅうはちえん。」


「おかあさん、これみて。

きょうは、まんだいの やすうりのひだよ。かいにいこうよ」

けれど、おかあさんは うんといってくれません。

「やすみのひくらい、すきなことを させろ」

と、こういうのです。

「そういえば、このあいだ うんてんめんきょをとったなら ひとりでもいけるじゃないか」

「なら、わたしがうんてんするから、いっしょにいこうよ」

「それはいやだなあ。おまえはきっと、うんてんがへただから、いっしょにのるくらいなら、おかあさんがうんてんする。でも、きょうはしない」

わかばちゃんは こまってしまいました。おかあさんが そういうのなら、ひとりでいくより しかたありません。あきかんや、トレイもたまってきているので、どうしても、きょう すててしまいたいのです。

「わかった わたしひとりでいく。じこしても しらないからね」

わかばちゃんは そういって あきかんのふくろをもつと ひとりで とびだしていってしまいました。

「ほうてきには わたしひとりで うんてんしても なんのもんだいもないもんね」

きょうしゅうしょ で もらったわかばマークを

くるまのまえとうしろに つけ、しゅっぱつ しんこうです。

ところが、なぜだか いくらエンジンのぼたんを おしても

エンジンが かからないのです。

「あれ?おっかしいなあ、このくるま、どうしちゃったんだろう。

あ、ブレーキをふんでいなかったんだ!」

ブレーキをふみ ボタンをおすと、くるまはたちまちうごきだします。

いきおいよく でてきたわかばちゃんですが、なんだか、ふあんなきぶんに なってきてしまいました。

「きょうしゅうじょ でてから しばらくたっているものなあ。ほんとうに わたしひとりで だいじょうぶかしら」

わかばちゃんは くびをよこにふると こういいました。

「きっとだいじょうぶ。みんな、うんてんしてるんだもんね」

 


わかばちゃんのうんてんする くるまは ちゅうしゃじょうをでて すすんでいきます。

「あ、ナビをつけてない!」

いつものスーパーとはいっても ナビがないと なんだか ふあんなものです。

「どうしよう。どこかに くるまをとめて、ナビをせっていしないと」

きょうしゅうじょで ならったことを すっかりわすれてしまった わかばちゃんには くるまをとめられるばしょ とめていいばしょが どこなのか ちっともわかりません。

「つぎの あかしんごうで ひっかかりそう。そのときに せっていしよう」

あかしんごうで とまるやいなや ナビをせっていしはじめます。けれども なんだか うまくいきません。

「あれ、どうして でてこないんだろう。おかあさんや きょうかんが いたときとは ずいぶんちがうなあ」

そのときでした。うしろのくるまの クラクションが プップー!となったのは。いつのまにか、まえのしんごうは あおにかわっていたのです。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

うしろのおじさんに きこえるはずもないのに、なんどもあやまります。ルームミラーごしにみえる おじさんのかおは ふきげんそうで、わかばちゃんは こわくなってしまいました。

「はやく まんだいにつきますように」

 


そんないっしんで ハンドルをまわしたり ブレーキをふんだりしていると、やっと うれしいことに まんだいのかんばんが みえてきました。

「やった!ひとりでまんだいにいけた」

けれども よろこぶのは まだはやいのです。まんだいは にんきのスーパーなので ちゅうしゃじょうが いつも とてもこむのです。

「あそこが あいていそう」

ゆっくりと むかっていきます。ちゅうしゃじょうないは さいじょこうだからです。

ところが、むこうからきたひとが そのばしょを うめてしまったのでした。もう あいているばしょは ありません。わかばちゃんは なきそうになりましたが、ないても わらっても ちゅうしゃじょうは いっぱいなのです。

「もう、しゃどうに でられないよー。どうしよう?」

そのとき、うしろのばしょに とめていたくるまが うごきだしました。かいものをおえて でていくようです。そのくるまのひとは わかばちゃんのほうをみて、

「ここ、どうぞ」

といったように おもえました。

わかばちゃんは うれしくなり たくさんえしゃくを したあとに、ごかいくらい きりかえして、なんとか そのばしょに くるまをいれました。バックで くるまをすすめていると まどからみえる うしろのくるまが どんどん おおきくなってきて、あっときがついた わかばちゃんは すんでのところで ブレーキをかけました。

「そうだ!このちゅうしゃじょうには くるまどめが ないんだった。あぶない、あぶない」

ぶつけてしまっていたら どうなっていたか、そうぞうすると こわくなりました。ほけんには はいってもらっている とはいえ、これいじょう ほけんりょうをあげて かけいに ふたんをかけるわけには いきません。

 


なにはともあれ それからのおかいものは、もう たのしくて なりませんでした。だって、いくらおもいものをかっても だいじょうぶなのですから。

わかばちゃんは ワインをさんぼんと はくさいをひとたま ぎゅうにゅうをにほん ねこのごはんを ふたふくろかって くるまにのせました。

「めんきょをとって ほんとうによかったな。もう、うでがいたいと おもいながら にもつを はこばなくて いいんだから」

あとはかえるだけと おもいながら、こんどはちゃんと ナビをせっていします。

ちゅうしゃじょうも いれるときと ちがって、でるのは かんたんです。

あんしんして はしっていた わかばちゃんですが、うっかり うせつのばしょを とおりこしてしまいました。

「あそこで まがらないと いけなかったのに」

わかばちゃんは アスペルガーのけいこうがあるので、よそうがいのできごとに よわいのです。

なみだがでそうになる わかばちゃんに、ナビは さんびゃくメートル さきをまがれと いいました。

けれども、そのみちを まがったしゅんかん、わかばちゃんは こうかいすることに なりました。なんてせまい みちなんでしょう!たいこうしゃがきたら きっとすれちがえません。

しかも まえのほうには じてんしゃが わがものがおで はしっています。

こんなみちを あんないするなんて、ナビはいったい なにをかんがえているのでしょうか。たよりにしていた ナビのことも しんじられなくなり、わかばちゃんは ほんとうに なきだしてしまいました。

「やっぱり わたしみたいなひとが くるまをうんてんしようだなんて かんがえちゃいけなかったんだ」

けれども ないていても はじまりません。すぐにでも バックでみちをでたい きもちをこらえ、

「すこしでもはやく このみちをでよう」

と、ひとりごとをいって ブレーキから あしをはなしました。きょうは とりにくのグラタンと なまハムサラダのばんごはんを つくらないと いけないのです。

じてんしゃを おいこすのは こわかったけれど、わかばちゃんは これまでになく しゅうちゅうして うんてんしました。

けれども、まっくろなアルファードが まえからやってきたのは そのときでした。

「そんなくるまで、こんなみちを とおらないでほしい」

そうはいっても はじまりません。できるかぎりひだりに くるまをよせ、あとはアルファードにまかせようとおもった そのしゅんかん。

ガガガッ!というおとがして、わかばちゃんはとびあがりました。みると でんちゅうに ミラーがあたって しまっています。そのときの わかばちゃんのあたまにうかんだのは、おかあさんの おこったかおでした。

「おかあさん、おこるだろうなあ。しゅうりだい はらえって いうにちがいない」

アルファードは いってくれましたが、わかばちゃんは がっくりとして いえまでのみちを とろとろとすすみました。うしろのくるまが おこっているような きがしましたが、それよりも おかあさんの おこったかおのほうが こわかったのです。

なんとか いえのまえまできて、にもつを おろしました。かったときは あんなにうれしかったたべものが、いまはちっとも うれしくおもえません。

いえにはいると、おかあさんは コーヒーをのんでいました。

「おかあさん、あのね、わたし、でんちゅうに ミラー、こすっちゃったの」

わかばちゃんは、ふるえるこえで いいました。

おかあさんは びっくりしたような かおを しましたが、すぐに こういいました。

「なあんだ、そんなことか。わたしの わかいときなんか、もっといろんなとこ ぶつけてたよ。わかばが ぶじなら いいんだよ」

わかばちゃんは それをきいて あんしんして すわりこんでしまいました。

「よかった。だけどもう、しばらくは ひとりで うんてんしないことにする」

おかあさんは

「きょうのごはんはなに」

とききました。わかばちゃんが

「とりのグラタン」

とこたえると、おかあさんは、うれしくもなさそうに

「グラタンかあ」

といいました。

 


おわり

 

※事実をもとに脚色・再構成を加えています。